狙った部位をストレッチングすることはできるのか? ~ハムストリングスの肉離れの再発予防を目的に~

みなさんこんにちは。

全国のファンの皆様長らくお待たせしました、筑波大学大学院の川間です。


ファンなんて一人もいない・・・?

それは僕が一番よくわかっています。


さて、今回のテーマはハムストリングスの肉離れの再発予防を狙ったストレッチング法についてです!


まず、今までハムストリングスの肉離れを経験したことがある皆さま。

肉離れした時を振り返り、どこの部位を受傷したか思い出してみてください。

お尻に近い側? 膝に近い側?


肉離れの後は柔軟性が著しく低下し、再受傷のリスクが高くなると言われています(Opar et al., 2012)。

そのため、受傷した部位を選択的にストレッチングすることは肉離れの再発予防の観点から極めて重要であると言えます。


現場では柔軟性の向上を目的に、大きく分けて以下2タイプのストレッチング法が主に使用されていると思います。

股関節屈曲型:膝関節の動きを固定して、股関節のみを屈曲させていくストレッチング法

膝関節伸展型:股関節の動きを固定して、膝関節のみを伸展させていくストレッチング法


この2つのストレッチをどうやって使い分けていますか?

なんとなく使い分けていませんか?


「これらのストレッチング法を使い分けることで、狙った部位を選択的にストレッチングできるかも?」そんな疑問を解決した研究があります (中村ほか, 2017)。


【方法】

15人の対象者に股関節屈曲型と膝関節伸展型の他動ストレッチングを行わせました。

そして、この2つのストレッチング法と基準肢位 (膝・股関節90°) での筋の伸長の度合いを測定しました。

筋の伸長度合い (弾性率) は、超音波画像診断装置のせん断波エラストグラフィーという機能を用いて、肉離れが最も発生する大腿二頭筋長頭の近位部・中間部・遠位部から測定されました。

そして、各部位の伸長率 (弾性率の変化率) を以下の式から算出しました。

(膝関節型または股関節型の弾性率-基準肢位での弾性率)/基準肢位での弾性率


【結果】

図が示すように、本研究からは以下の結果が得られました。

① すべての部位において筋の伸長率は基準肢位と比べて膝関節・股関節優位型で大きい

② どの部位においても、膝関節・股関節優位型間に伸長率の差はない

③ 部位間の伸長率に差はない


つまり!!

膝関節・股関節優位型のストレッチング法は大腿二頭筋長頭の全ての部位を伸長させることが可能ですが、伸長の程度はどちらも同等であるということですね。


このことから、ストレッチングの方法を変えて、狙った部位をストレッチングすることは難しいと言えそうです。


「いやいや、ストレッチングの方法によって効く部位違う気がするんやけど~!」( `―´)ノ

そう感じる人は以下の考察を読んでみてください!

(少し難しくなってしましますが・・・)


特に気にならない人は【まとめ】まで飛んじゃいましょう!!


【考察】

まず、筋が伸長することによって、筋全体に筋を伸ばそうとする力が発生します。

この筋を伸ばそうとする力は筋の近位部から遠位部まで均等に伝播すると考えられています。


今回の研究で用いたストレッチング方法において、

膝関節伸展型では、まず大腿二頭筋長頭の近位部である股関節を屈曲し、その後に遠位部の膝関節を伸展していました。

一方股関節屈曲型では、まず遠位部である膝関節を伸展し、その後に近位部の股関節を屈曲していました。


このように伸展する関節の順番が異なるなかで、筋を伸ばそうとする力はどの部位でも同じあったため、筋の伸長度合いに差がなかったと考えられます。


このことから、普段ストレッチを行う時、「伸びている位置が違うな~」と感じてもそれは伸びる部位の順番が違うだけで、実は筋全体が均一に伸びているのかもしれません。

本研究では一時的な伸長度合いしか測定していないため、ストレッチング効果を確かめるために今後より詳細な研究が求められます。


「川間さんわかりにくいよ~。」と思う人は、この論文を読んでみてください!

(う~ん、投げやり!)


【まとめ】

今回の記事では、肉離れ予防の観点から「ストレッチング法の違いによって狙った部位をストレッチングすることはできるのか?」という疑問についてお話しました。

その結果、ストレッチング法を変えて狙った部位をストレッチングすることは難しいことがわかりました。

しかし、股関節屈曲・膝関節伸展型どちらも筋を大きくストレッチングできることが分かったので、肉離れ予防にはどちらの方法も有効だと考えられます。


トレーニングや練習しているときに感じた疑問は、今回の研究の様に論文や本、Boutaka Channelの過去の記事を読んでみることで、その答えに出会えるかもしれません。

知識ばかりになりすぎず、感覚ばかりになりすぎず!

両者のバランスを取りながら各々の目標に向かって突き進んでいきましょう!


これから冬季練習も終わり、暖かくなります。

肉離れシーズン到来です(‘Д’)

ストレッチング、疲労度や違和感の確認など…

今まで以上にケアや予防に注意を払いましょう!

以上、川間でした。


【参考文献】

Opar, D. A., Williams, M. D., & Shield, A.J. (2012). Hamstring strain injuries. Sports medicine, 42(3), 209-226.

中村雅俊, 池添冬芽, 西下智, 梅原潤, & 市橋則明. (2017). ストレッチング方法の違いにより大腿二頭筋の部位を変化させることができるか? 理学療法学. 44(2), 124-130.

Boutaka Channel

「Boutaka Channel」は、全てのボウルター(棒高跳競技者)の『もっと高く跳びたい!』を叶えるために活動します! 運営:NPO法人ボウタカ

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