助走の成功は前半のリズムで決まる!?

こんにちは。

NPO法人ボウタカの奥玉です。


今回は、私自身の修士論文のテーマになった「助走のリズム」に関して、以下の論文をご紹介します。


「水平跳躍種目における加速局面の走り方がパフォーマンスに及ぼす影響」

(吉田孝久, 石塚 浩, 松尾彰文, 松林武生, 苅部俊(2014)陸上競技研究, 97(2):17-26)


こちらの論文の題材種目は水平跳躍種目(走幅跳や三段跳)ですが、助走が大きなカギを握る棒高跳にも、非常に参考になる内容です!


助走は、スピードも大切ですが「助走のリズム」も非常に重要です。



青山ら(2007)の研究によると、上級走幅跳選手とそのコーチが一致して成功試技とした場合の判断基準は「助走の流れ(リズム)」であったと報告しています。


特に、コーチ側は「助走のリズム」の中でも助走の前半部に注目している人が多いと言われています(青山ら, 2007)。


では、実際に助走の前半部(以下、加速局面)の走り方が変わると、それ以降の助走にはどんな影響があるの?というのが、この研究で検証されています。


対象者は、大学の陸上競技部で走幅跳および三段跳を専門とする男子選手4名です。


試技は、対象者の普段の助走に以下の運動課題を与えています。


1)助走で最大疾走速度を獲得すること
2)踏切板に足を合わせること
3)踏切ること


上述した内容を踏まえて、加速局面の走り方を以下の3種類で、ランダムに各2回ずつ行っています。


①通常の助走(プロパー型)


②スタートから6歩目まで脚を刻むようにして走る助走(ピッチ型)

※ストライドを1歩あたり30cm程度短くし、スタート位置はプロパー型よりも1.5m〜2m短くなるように設定


③スタートから6歩目まで大きなストライドで足を運ぶ助走(ストライド型)

※ストライドを1歩あたり30cm程度長くしスタート位置はプロパー型よりも1.5m〜2m長くなるように設定


測定項目は、1歩ごとの疾走速度、ステップ頻度、ステップ長とし、以下の局面に分けて比較をしました。

・加速局面:スタートから6歩目まで

・中間局面:6歩目以降から踏切5歩前まで

・踏切準備局面:踏切5歩前から踏切まで


それでは、①プロパー型、②ピッチ型、③ストライド型の加速局面の走りをすると、どのような特徴がみられるのでしょうか?


局面ごとに結果および考察を見ていきましょう。



加速局面について

ステップ長:ストライド型>プロパー型>ピッチ型

ステップ頻度:ピッチ型>プロパー型>ストライド型

疾走速度:ストライド型>プロパー型


ステップ長もステップ頻度も、プロパー型はストライド型とピッチ型の中間になる予想だったが、「ストライド型」に近かった(図1, 図2)。


このことから、「跳躍選手は元々、ストライド型に近い走り方をしている」と考察しています。

その理由として考えられるのは以下の2つです。


①走幅跳の助走のような最大下努力度(約90%)のスプリントはストライド型のように、ステップ長を大きくすることで疾走速度を獲得するため(伊藤, 2001)。


②踏切にかけてリズムをあげていくので、ピッチ型のような走りでは、踏切前でさらにリズムアップするのが難しいため。


(原論文をもとに奥玉が作成)



中間局面について

疾走速度:助走スタイルによる違いはみられなかった。

ステップ長:ストライド型>プロパー型>ピッチ型

ステップ頻度:ピッチ型>プロパー型>ストライド型


このことから、中間局面の走りは加速局面の走りの影響を受け、速いリズムで走り始めると中間局面でも速いリズムが維持され、ゆっくりなリズムだと中間局面もゆっくりしたリズムになることが明らかになりました。



踏切準備局面について

中間局面までみられていた助走スタイルによる違いがみられなかった。


これは、踏切り板に足を合わせようとする視覚調整機能が働いたためだと考察されています。



以上のことから、

「加速局面の走り方を変えると、中間局面の質的な面に影響を及ぼした」

ことが分かりました。


跳躍種目の助走では、伸びやかなストライド運びや踏切しやすい軽快なリズムが跳躍を成功させるのに必要だと考えられています。


加速局面と中間局面は助走の大部分を占めるので、こうした助走の流れに大きな影響を与えていると考えられます。


一方で、踏切準備局面では、「踏切しやすいリズム」の獲得も必要があり、それまでの疾走速度の獲得と助走の流れを主な目的とした走り方とは異なっていることが考えられます。


適切な踏切5歩前の位置を探し、この位置に安定して足を合わせられる助走リズムを設定する必要もあると述べられています。


ただし、踏切準備局面の考察に関しては、対象者数も4名と少なくばらつきも非常に大きい結果であったため、対象者数を増やしてさらに検討する必要があることを、今後の課題としています。



最後に、トレーニングでは以下の方法を取り入れることを推奨しています。


スピードが出しやすく助走の流れが良かったときの6歩目の位置を探し、そこにマークを設定する。


1)の助走を安定させた上で、踏切5歩前にもマークを置き、これに足を合わせることで踏切に向けて安定した助走を構築することができる。



【この結果から考えたこと】

今回は走幅跳や三段跳が対象の研究でしたが、「加速局面の助走リズムはそれ以降の助走リズムにも影響する」可能性があるのは、助走スピードや助走リズムが重要な棒高跳にも同じ事が言えるのではないでしょうか。


棒高跳の助走は「ポールを持つ」という要素が加わり、ポールを持つ上半身の動きと下半身の動きのリズムを合わせて助走することも非常に重要です。


このリズムを最適なものにするためには、まずは加速局面のリズムから注目してみると良いかもしれません。


良い助走のリズムは、加速局面から!


ぜひ、参考にしてみてください。


(文責:奥玉)


【参考文献】

青山清英, 越川一紀, 青木和浩, 森長正樹, 吉田孝久, 尾縣 貢(2007)走幅跳における選手の自己観察内容とコーチの他者観察内容の関係に関する研究.陸上競技研究,71(4):16-28


青山清英, 越川一紀, 青木和浩, 森長正樹,吉田孝久, 尾縣 貢(2009)上級走幅跳選手におけるパフォーマンスに影響を与えるバイオメカニクス的要因とコーチの他者観察内容の関係.スポーツ方法学研究,22(2):87-100


伊藤浩二, 村木征人, 金子元彦(2001)スプリント走加速局面における主観的努力度の変化がパフォーマンスに及ぼす影響.スポーツ方法学研究,14(1):65-76

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