「踏み切れない病」への処方箋

「ピットに立った瞬間に、踏み切れないと感じてしまう。」

「イメージしても、全く上手くいく想像がつかない。」

「マットが近づくと、踏み切れない気がしてしまう。」


棒高跳を行っていると、このような心境に立たされ、踏み切れなくなる選手がいます。

このような状況は数週間、または数か月にわたる場合もあり、「踏み切れない(突っ込めない)病」と呼んだりもします。

今回はこの「踏み切れない病」について考えていきたいと思います。


【「踏み切れない!」の原因とは】

これは選手の「学習と本能(危機察知能力)」により起こります。

選手は練習や試合を通して、経験を学習していきます。

そして実際に跳躍をする際に、これまでの学習を手がかりに状況を認識し、危険だと察知した時に「踏み切れない」と判断します。


【「踏み切れない!」の種類】

選手が踏み切れない状況は、それが続く期間によって、大きく2つに分けることが出来きます。


①一時的な「踏み切れない!」

数本にわたり踏み切れなくなり、その後またすぐに踏み切れるようになります。

ほぼ全ての選手が経験したことがあるのではないかと思います。

助走の途中に動きが悪かったり、助走距離が合っていない場合に、脳が危険を察知し、踏切らないように判断します。

天候や疲労、また技術のズレがほとんどの要因で、これらに適応することで解決されます。


②長期的な「踏み切れない!」

数週間、または数か月にわたり踏み切れなくなる選手がいます。

これらが「踏み切れない病」と呼ばれる状況です。

もちろん、一時的な状況に比べて深刻な状況です。

解決するために、「踏み切れない病」について理解していきましょう。


【「踏み切れない病」とは】

棒高跳における「踏み切れない病」は、「イップス」だと考えていいでしょう。

イップスとは「心の葛藤により、動作に影響を及ぼす心理的な症状です。スポーツにおける集中すべき場面や、プレッシャーにより極度に緊張する場面で硬直し、思うように動けなくなる症状」です。


棒高跳でいうと、集中するべき場面、失敗する可能性が高まった場面(ある助走歩数になった途端、あるポールを使おうとした途端)に体が思うように動かなくなり、踏み切れなくなります。


このような症状は国内に限らず、海外でもみることが出来ます。

また、初心者に限らずトップ選手にも起こる場合があります。

2008年の北京オリンピックで優勝したSteven Hooker選手も、「踏み切れない病」を経験したことのある選手の一人です。

彼は2000年に世界ジュニアで4位に入賞し、その後2002年から2004年の2年間「踏み切れない病」になっています。また、2012年のロンドンオリンピック後にも数か月にわたり「踏み切れない病」になっていたことを告白しています。


【「踏み切れない病」になるまで】

踏み切れなくなる時は「突然」ではなく、前触れがあります。

・失敗跳躍で怪我をしてしまった。

・否定的な指導により、自信を失くしてしまった。

・「踏み切れないこと」を過度に気にしてしまった。


このような経験が積み重なることで、次第に「踏み切れない病」が悪化していきます。


【どんな選手がなりやすい?】

想像力が強く、完璧主義な選手は「踏み切れない病」になりやすいです。


想像力の強さは、良い記憶も悪い記憶も想い起すことに繋がります。

そのため、もし悪い記憶が強くなると、途端に良い記憶への切り替えに苦しみます。

いざ助走を始めても、悪い記憶がフラッシュバックして、思うように動けなくなることが考えられます。


また、完璧主義はプレッシャーの抱えやすさに繋がります。

踏み切れないことに負い目を感じてしまうことで、より「踏み切らなくてはいけない!」というプレッシャーを自ら高め、結果として思うように動けなくなることが考えられます。


【「踏み切れない病」への処方箋】

個人の心のはたらきが引き起こすものであることから、「これをすれば絶対治る!」と言えるものがないのが現状です。

今回はイップスの選手が試すと良いとされる方法を棒高跳に当てはめて、いくつか紹介します。


① 自らが「踏み切れない病」であることを認め、指導者に伝える

「踏み切れない病」であることを認め、開き直ってください。

そして指導者やチームメイトにもそのことを伝え、理解を得ることが必要です。

「踏み切らなくてはいけない環境」は、ますます選手自身にプレッシャーを与え状況を悪化させていきます。まずは、「踏み切れなくてもいい環境」を大切にします。


②「踏み切ること」に合わせて、もう一つの技術課題を設定する

「踏み切ろう」とすること、その動作に注意を集中すればするほどに、踏み切れなくなります。

そのため、「踏み切ること」に集まった注意を分散させることが有効であるとされています。

例えば、踏切時の目線を高くするであったり、手を高く上げる、声を出しながら踏み切るなどです。

また、踏切後の動作、例えば、スイングやターンなどに課題を置くことで、踏切に集まった注意を分散させ、緊張を解くきっかけになり得ます。


③使う筋肉を変える

筋肉の硬直が起き、思うように動けなくなることで、踏み切れなくなります。

そのため、いつもと少し違う動きにすることで症状が改善する可能性があります。

ただし、棒高跳は基本的な動きが決まっています。

棒高跳でできる取り組みとしては、グリップの幅を変える、ポールの降ろし方を変える。また、突込みの動作をよりスムーズに改善することで動員される筋肉が変化することも考えられます。


④自らの認識を作り直していく(運動)

短助走や短いポールを使いながら、自らの動きに対する考えを改めて作り直していきます。

Steven Hooker選手は、短助走から跳躍を行い、少しずつ距離を伸ばすことで「踏み切れない病」を克服していきました。

不安な動きが自信の持てる動きだと思えるようになるまで、焦らずに少しずつに行います。


⑤自らの認識を作り直していく(考える)

認識を変えることは、必ずしも跳躍で行う必要はなく、イメージの中でも行うことが出来ます。

実際に上手くいかない場面を想い起し、その時の状況を書き出していきます。

そしてそのイメージが本当に不安に感じるべきことなのかを、検討していきましょう。

不安に思っていたことは、本当は不安に思う必要のないことなのかもしれません。



今回は「踏み切れない病」について、考えていきました。

今回紹介した解決への方法は、一般的な内容です。

実際に様々な「踏み切れない病」の事例を収集することで、より具体的な解決への過程が見えてくるのかもしれません。


最後に、今回参考にした記事をシェアしておきます!

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