【学会大会報告】棒高跳に体幹の安定性は必要なの?
こんにちは。中京大学大学院の榎将太です。
今回は体幹の安定性と自己最高記録(PB)との関連についてです。
「体幹が安定していることが良いって言われているけど、本当に必要なの?」と思っている人も多いと思います。
今回の記事がその一助になればと思います。
記事の最後には、「Boutaka Channel」の今後に関する告知があるのでよろしければお付き合いください!
下記の内容は2019年度日本陸上競技学会第18回大会で発表いたしました。
【スポーツパフォーマンスと体幹】
近年、パフォーマンスの向上や傷害予防に体幹が注目されています。
よくプロ野球選手やサッカー選手が本を出していたりしますね!!
先行研究において、適切な体幹筋群の動員により手足のコントロールがしやすくなると報告されています(1)。
これまで様々なスポーツで体幹部の安定性や持久力と各競技パフォーマンスの関係について研究されています。
一方で、棒高跳において体幹部の安定性と競技パフォーマンスに関する調査は行われておりません。
では、「やるしかない!!」と思い、今回研究を行いました。
【棒高跳における体幹部安定性】
対象者:
東海地方で活動する大学生以上の男子棒高跳選手17名
(ご協力ありがとうございました!!)
方法:以下2つのテストを行いました。
① 矢状面上の体幹部安定性:modified Double Leg Lowering Test (mDLLT)
仰向けの状態で、膝と股関節を90度屈曲させます。
その体勢から,約10秒かけて股関節がまっすぐな状態(股関節0度)になるまでゆっくり両脚をおろしてきます。この時膝は屈曲させたままにします。
この運動を行っている間に、測定者は選手の腰あたりに手を入れて、選手の体幹部からの圧を観察します。手に体幹部からの圧が感じられなくなった時点の机と太ももの角度を動画上で解析しました。
② 水平面上の体幹部安定性:Plank with Arm Lift Test (PALT)
手を肩幅にしたPlankの姿勢(肘立て)から片手をあげます。
この時に測定者は選手の骨盤を持ち動揺を観察します。そして、動揺が見られない最小の足幅を測定します。
2つのテストについて、どちらも測定した値が小さいほど安定性が高いという評価になります。統計解析には正規性の検定の後に相関分析を用いました。
【競技力が高い選手のほうが体幹部が安定している?】
「① mDLLT」とPBに有意な負の相関関係が見られました。
さらに、踏切時に上側になる手(右利きの場合の右手)をあげる際の「② PALT」とPBにも同様の関係が見られました。
つまりは、体幹部が安定している選手ほどPBが高い関係がみられました。
(逆説も可能です)⇔PBが高い選手ほど、体幹部の安定性が高い関係がみられました。
この結果から考えた私自身の意見を以下に述べます。
「踏切からスイングへの影響」
矢状面上の安定性は、踏切からスイング動作を行う際に必要になると考えています。
踏切では、腰を反らないようにするための安定性が必要です。そして、その後のスイング動作を行うためにも支点である体幹が安定していることが必要だと考えられます。
「身体の捻じれへの影響」
水平面上の安定性は、踏切時にかかる回旋(体が捻じられる)負荷に耐えるために必要だと考えられます。
踏切時の上側の手(右利きの場合の右手)には踏切時により大きな回旋負荷がかかることが考えられ、これはポールを曲げる時に、上の手側の肩(右利きの場合の右肩)をしっかりと使うために体幹部の安定性が必要であると思われます。
*この研究の限界点 横断的(ある時点のみ)な調査により得たデータのため、因果関係は不明です。
つまりは、体幹部を安定させることが直接、記録が伸びる or 記録が伸びれば体幹が安定するかは分からないということです。
今回の調査におけるPBは、対象者を評価する際の一つの基準に過ぎません。その他の研究と同様に、今回の結果に影響する他の要因の存在を否定することはできません。体幹部の安定性に対してよりダイレクトに関係している要因は他にあるかもしれません。
しかし、棒高跳を行うにおいて、いずれにしろ体幹部の安定性は必要になるのでトレーニングするべきだと私は考えています。
【まとめ】
PBが高い選手は、体幹部の安定性が高い関係が見られました。
今回の研究の結果は、「体幹部と棒高跳」に関する一部を垣間見たにすぎません。しかし、体幹部を安定させるためのトレーニングは競技力を向上させるために必要であると考えています。
地味トレを頑張りましょう!!
女子世界記録保持者イシンバエワ選手の補強の様子を参考に載せておきます。
【番外編】
最後に「日本陸上競技学会」の内容を紹介程度に、感想と:)
①室伏先生(順天堂)の女性特有の症状についての発表では、コーチとして女子アスリートとの関わり方について考えさせられました。また、女性アスリートにはぜひ聞いてほしい内容でした。無理せず、婦人科で相談しましょう。
②暑熱環境におけるパフォーマンスとして、学会長の小倉先生(大阪国際)の講演にて飲水量や飲む水分の温度が関連していることを知りました。近年はアイススラリーも行われていますが、まずはやりやすい冷たい飲み物(5度以下)を飲むことから始めましょう!
③日本の陸上競技の国際化として、日本のコーチングの輸出について海外と日本のコーチングや練習の違いを知りました。コーチとしても選手としてもいろいろな練習、考え方に触れることが重要で、そこから自分のスタイルを確立していきましょう。
④跳躍選手のトップコンディショニングについて森長先生(日本)と小林先生(日本体育)が講演されていました。質問させていただいたのですが、森長先生が見ている選手においてはクリーンやフロント・バック投げなどのコントロールテストを月に1度行っており、習熟状況を確認しているとのことでした。また、小林先生はパーソナルコーチをしている山本聖途選手や日体大の学生の練習計画や取り組みを教えていただきました。
男子と女子で週の跳躍回数を変えているという事例や、また山本選手の挑戦的な昨シーズンの取り組みなど、興味深い内容でした。なにより両コーチと講演後にお話しさせていただきましたが、優しく話しやすく、とても良い先生・コーチであることが伝わってきました。
【次回予告!】
Boutaka Channelに新メンバーが!?
日本陸上競技学会をきっかけに新たな出会いがありました。
「勇気をもって話しかけたり、行動することが大事ですね!!」
皆さんも積極的に行動していきましょう:)
参考文献
(1) Smith CE, Nyland J, Caudill P, Brosky J, Caborn DN:Dynamic trunk stabilization:a
conceptual back injury prevention program for volleyball athletes, J Orthop Sports Phys Ther, 38:703-720,2008.
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