棒高跳の記録を決定する要因とは?
今回は、2019年1月に公開された棒高跳選手を対象としたパフォーマンスに関する研究「Prioritizing Physical Determinants of International Elite Pole Vaulting Performance」の内容を紹介します。
(※内容が少しマニアックなので、詳細を知りたい方はそのまま読んでもらって、簡単に内容を知りたい方は”⇒”に必要な部分を抽出していますので、”⇒”に注目してください。)
研究結果を簡単にまとめると・・・
① 助走が速い選手は高く跳べる
② 通常のスプリントが速いと助走も速い
③ 記録の高い選手(成績の良い選手)は、ポールのありなしのスピードの差が少ない
④ 助走ではストライドが小さくなることで、通常のスプリントよりも遅くなる
⑤ ストライドが小さくならないように、助走中に水平方向により力を加えることを意識すると良さそう
では、詳細は以下をご覧ください!!
【緒言】
・先行研究において、踏切時の速度と跳躍高との間に強い相関関係(r;0.69〜0.86)が示されている(4, 8,21)。Cassirame ら(8)は、多くのパラメータの中で、踏切速度が男性(74%)と女性(58%)の両方において跳躍高の違いの大部分を説明することを示した。
⇒踏切時のスピードが速い選手ほど、より高い高さを跳ぶことができる!!
・助走速度は明らかに選手のスプリントスピードのポテンシャル、すなわち通常のスプリントで達成できる最高スピードに関係している。Gros and Kunkel(16)は、オリンピック棒高跳選手の助走速度は、ポールなしのスプリントスピードのポテンシャルよりも7.5〜11%(0.8〜1.2 m・s-1)低いと報告している。
⇒ポールを持たずに走るスピードが速い選手は、ポールの助走も速い。
通常の走りよりもポールの助走は7.5~11%遅くなる。
・いくつかの先行研究では、スプリントスピードと爆発的な力発揮能力の指標との関係を示している。具体的には、30〜100 mのスプリントパフォーマンスは、垂直方向の跳躍力(9)または高さ(25,27)と密接に関係している。また、Reactive strength index (RSI,ドロップジャンプ[DJ]中の接地時間に対するジャンプ高の比)は、最大スプリント速度の良い予測因子であることが明らかとなっている(25)が、文献の中には意見の相違が存在する(17)。
⇒通常のスプリント(30~100m)は、ジャンプの能力と密接に関連している。
・経験豊富な棒高跳選手において、ポールを持っていることにより、ピッチとストライドがどの程度影響を受けているかは不明であり、これらのステップ特性のどれが速度低下の原因であるかを明らかにすることは有益かもしれない。
⇒ポールを持っていることの助走への影響がどうして起きているのかは分からない。
【目的】
国際的な女性棒高跳選手における競技会時の跳躍高および助走スピード、通常のスプリントスピード、爆発的な力発揮応力および反応強度の指標の関係を調査した。
本研究の目的は、棒高跳選手のトレーニングにおける基本強度、スプリント能力、助走、および跳躍テクニックの優先順位付けのためのガイドラインを確立することであった。
研究デザイン:横断研究
対象者:8カ国を代表する20人の女性棒高跳選手(16歳から31歳)が研究に参加した。
10人世界のトップ100にランクインしていた10選手(group1)
他の10選手(group2)
【研究の方法】
〇スプリントと競技会時の助走
Group1と2は、同じイベント内で別々の競技会に参加した。
スプリント(50m)の測定を2〜3回行った。助走は最後の4ステップを分析した。
助走およびスプリント測定は、光学センサー(Optojump; Microgate、Bolzano、Italy)を走路に沿って測定ゾーン全体にわたって設置した。センサーを操作するソフトウェア(Optojump Next、Version 1.9.9)は、各試技における各ステップの位置、接地時間、離地時間を記録し、それにより各跳躍とスプリントのストライド、ピッチ、接地時間、水平速度からなるスプリントのデータセットを得た。
最も上手くいった跳躍と最も速いタイムのスプリントを採用した。
⇒スプリント(50m)と競技会時の助走から、ストライド、ピッチ、接地時間、水平速度を測定した。
〇ジャンプ
爆発的な力発揮能力および反射の強さを評価するためのカウンタームーブメントジャンプ(CMJ)、スクワットジャンプ(SJ)、およびDJは、スプリントの計測の前に行った。全てのジャンプは、腕の影響を排除するために両手を腰に当てて行った。
ドロップジャンプは3つの異なる高さ:0.2、0.4、および0.6mから行った。
すべてのジャンプについて、一次元フォースプレート(MLD Test EVO 2、SP Sport、Trins、Austria)を用いて地面反力を1,000 Hzで測定した。
CMJおよびSJについて、体重において正規化された3つの地面反力のピーク値とジャンプの高さを平均した。
DJの場合、RSIはリアクティブジャンプの”高さ / 接地時間”で計算された(11、12)。
2つの最良のRSI値を平均し、これら3つ高さにおいて平均値の最大値(RSImax)を統計分析のために保持した。
⇒カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)、スクワットジャンプ(SJ)、ドロップジャンプ(DJ)を行い、地面反力(地面から跳ね返ってくる力)とジャンプ高を測定した。
〇調査した項目
以下の関係について調査した。
・助走速度(Vapproach) と 跳躍高(hvault)
・スプリント速度(Vsprint) と Vapproach
・CMJのジャンプ力(Ppeak CMJ)と Vsprint
・SJのジャンプ力(Ppeak SJ)と Vsprint
・CMJの高さ(hCMJ)と Vsprint
・SJの高さ(hSJ)と Vsprint
・RSImax と Vsprint
スプリント‐助走間の運動学的ステップ特性(ストライド、ピッチ、および接地時間)の変化は、パーセントとして表した。
【結果】
17人の被験者について完全なデータが得られた。
Group1(世界ランキング≦100位;跳躍高4.22 ± 0.17 m)では、hvaultとVapproachの間に非常に強い正の相関があり(r = 0.88 [0.61-0.97])、競技会の跳躍高の違いの77%は助走速度の違いによって説明されたことを示した。
hvaultとVapproachの間、VapproachとVsprintの間、VsprintとhCMJの間、およびVsprintとhSJの間の相関が非常に大きかった(r = 0.86 [0.70-0.94]、r = 0.72 [0.47-0.86]、r = 0.72 [0.47-0.86]、r = 0.76 [0.54-0.88])、VsprintとPpeak CMJの間、およびVsprintとPpeak SJの間の相関は大きかった(r = 0.67 [0.39-0.84]およびr = 0.63 [0.33-0.81])。 また、VsprintとRSImaxの相関は小さかった(r = 0.26 [-0.13-0.58])
⇒先行研究どおり、跳躍高と助走速度、助走速度と通常のスプリント、通常のスプリントとCMJの高さに非常に強い関係が見られた。
【考察】
研究の限界:本研究の主な制限は、女性だけが調査されたことです。
結果として得られる回帰式のそれぞれが高い確率を示した。
Fig.4のフローチャートは、主な調査結果を要約して適用したもので、棒高跳のトレーニング計画を個別化するための決定木としてコーチや選手が使用することができる。
ステップ特性に関して、結果は、スプリントと比較して助走速度の違いが主にピッチの低下よりも、むしろストライドの減少によるものであり、group1と2の間のこの傾向に明らかな違いはないことを示唆する。
助走中により水平方向に力を加えるための技術的能力を向上させることが、トレーニングの目標であるべきであるということは、棒高跳にも当てはまるかもしれない。この場合、助走練習中により効果的な(すなわち、より水平方向の)力を加えることを強調すべきであり、ストライドを維持するための手段になり得る。
同じ踏切速度では、記録の低い選手(group2)より記録の高い選手(group1)の跳躍高が高かった。これは、上半身の強度と運動エネルギーを跳躍高に変換する技術的能力もグループ間で異なるという仮説を確認できた。さらに、本研究の結果は、記録のより低い女性選手と比較して、より高い記録の女性選手が跳躍時にスプリントスピードのポテンシャルの多くを使用することを確認した。
⇒女性のみを調査したので、男性では当てはまるかわからない。
⇒Fig.4のフローチャートは、棒高跳のトレーニング計画を個別化するためにコーチや選手
が使用することができます。
⇒より水平方向に力を加える技術を向上させることが、必要である。
⇒同じ助走速度でも記録の高い選手は、より高く跳ぶことが出来ていた。つまり記録の高い選手は、助走のエネルギーを跳躍高に変換する技術的能力が高いと考えられる。
⇒記録の高い選手はより通常のスプリントと助走でスピードの差が小さいことが分かった。
【BoutakaChannel的考察】
・ストライドの減少と水平方向への力発揮について
本文中では、棒高跳の助走における、身体を立てた姿勢が、この水平への力発揮をしづらくしているが、それは走りの技術で改善することが出来るとされています。
ここで注意したい点として、水平に進もうとして、助走中に極端に前傾姿勢を取ったり、地面を押そうしたりすることです。これらの動きは、助走中の姿勢を崩し、踏切姿勢が崩れ、また突込動作が完全に行えない原因になりかねません。
⇒適切な姿勢をキープしたままで、しっかりと進むことが出来るような助走を目指しましょう。
またここで影響するもう一つのポイントはポール保持だと考えています。
ポールが倒れ、両手にポールの重さがかかった状態になると、身体が緊張し、姿勢が崩れ、走動作が崩れる原因になります。結果としてストライドの減少、助走速度の失速につながると考えています。
⇒ポールの先端を十分に上げ、ポールの重さをできるだけ感じずに、ポールを降ろせるような、「ポール降ろし」の技術も、この助走には大きく関係するでしょう。
理解することができたでしょうか?
経験だけでなく、科学の力を借りてトレーニングを考えることも重要です!!
当たり前のことかもしれませんが、助走で速く走るために通常のスプリントが速くなることや、踏切後に、スピードを無駄なくポールに伝えることは必要です。
体力を高めることと技術を高めることを同時に進めていけるように、毎日のトレーニング内容を考えてみてください。
今回も最後まで見てくれてありがとうございました、次回もよろしくお願いします!!
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