ポールを切断するとどんな変化があるの?〜跳躍実験を手がかりに〜
皆さん、こんにちは。
NPO法人ボウタカメンバーの青柳です。
今回は2023年5月「スポーツパフォーマンス研究」に掲載された私自身の論文を紹介させていただきます。
棒高跳選手にとってポールの選択は、競技記録を向上させる上でとても重要です。
より長く・硬いポールを使用することが全ての競技レベルの選手にとって求められるでしょう。
しかし、一つ上のポールに挑戦しようとしても、なかなかポールが使えないことがあります。
そんな時にどうするか・・・
今回紹介する内容は、競技現場ではあまり一般的ではない、どちらかというとイレギュラーな「ポールを切断する」ことについて実験してみた!というお話です。
実際に競技現場ではボックスとの接触によってポール下端(プラグ側)が劣化し、折れることがあります。
そして、折れてしまったポールは切断部分を整えて、再利用されていたりします。
また、稀な事例ですが、ポールをあえて切断して長さを調整し、使用している選手もいます。
※これらは安全に留意した上での範囲内による使用です。
ポールを切断して長さを調整することで、感覚的に使いやすさを感じられるのではないかと思いこの実験がスタートしました。
では、実際にポールを切断するとどのような変化が起きるのか?
これについて跳躍実験を行って調べてみました。
1.方法
ポールは、女子棒高跳選手(筆者)がこれまで使えなかったポール(4.27m / 145lbs / Gill Athletics社)を切断したものを使用します。
このポールを5cmずつ切断し、ポールの操作を安定して行える男子競技者が、クリアランスまで行わないポール曲げ(ポールベンディング)を行い、その変化を見てみました。
握りの高さは4.00mに統一しています。
切断するポールの長さの決定は、男子競技者の主観的なポールの起きやすさを参考に決めました。
ポールを切断することによる変化は、映像分析によりポールの曲がりの大きさ(ポール湾曲率)と起きやすさ(ポール角速度)の客観的な変化を調べました。
2.結果
切断するポールの長さを決定!!
男子競技者の主観では、女子棒高跳選手(筆者)がこれまで使えなかったポール(4.27m / 145lbs / Gill Athletics社)を使い、4m00の握りで跳躍するのであれば、ポール下部を10cm切断するのが良いのではないかとなりました。
【ポールを切断することによる変化】
ポールを10cm切断することで、切断する前と比べると
・ポールの曲がりの大きさは変化しない
・ポールの起きやすさは高くなった
つまり、
ポール下部を10cm切断することでポールの曲がりの大きさは変化しないが、ポールは起きやすくなった!
3.まとめ
本研究でポールの下部を切断することでポールが起きやすくなったのはどうしてなのか考察してみます。
Jaffley(2004)は、ポールは製作過程で材料をテーパー状に金属のマンドリルに巻き付けて作る際に、ポールの下部にかけて厚くしていると述べています。
棒高跳ポールは、材料となるカーボンとグラスファイバーをカットしたセルピースを巻いて作られており、その形により曲がりの特性を作っています。
ポールの湾曲は必ずしも均一ではなく、写真のように、上部は曲がりやすく、ポール下部ほど曲がりにくい構造になっている場合がほとんどです。
※ポール負荷実験の様子(Jeffley(2004)より引用)
そのため、本研究ではポールの下部を切断することで湾曲の形状が変化し、ポールが起きやすくなったのではないかと考えられます。
競技現場でたまに見受けられる折れたポールの再利用やポールの長さを調整しているというのは、実施者の感覚に依存して行われていますが、そこには理由があるのかもしれないですね。
本研究は、あくまでも一事例による報告です。
ポール切断の適切な長さを決定する過程は、安定して操作ができる競技者(代行者)の主観的評価と映像分析による客観的な評価に基づいて決定しています。
ポールの長さや硬さ、使用者の状況などによって変化するでしょう。
切断せずとも適切なポールが競技環境上整っている場合は、ポールを切断する必要はありません。自身の競技環境を考えた上で安全に配慮して行うことをお勧めします。
もし本文に興味があれば、ぜひ読んでみてください。
【本文】青柳ら(2023)棒高跳におけるポールを切断する長さの決定過程と跳躍試技の変化:跳躍実験を手がかりにした場合. スポーツパフォーマンス研究 15
文責:青柳唯
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