"棒高跳王国"フランスの土台
2023年1月13・14日、アメリカのネバダ州リノで開催された棒高跳サミットに行ってきました!
今回は参加したセッションより、元フランス記録保持者(5m94)で、現在2人の息子のコーチやナショナルチームのサポートをしている Philippe Colletさんの講演の内容を紹介します。
このセッションはコーチ、学生選手、また選手の親を対象に行われました。
ヨーロッパとアメリカの棒高跳の違い
まさに「アメリカ的な質問」ですね。
そもそも、ヨーロッパにはたくさんの国があります。
そしてそれぞれ違うシステムがあります。
例えばフランスとイングランドは地理的にはトンネルで繋がっている隣国ですが、棒高跳の文化や歴史を取り上げてみると全く違います。
ここ40年を振り返ってみると、イングランドでは5人の選手が5m70をクリアし、フランスでは40人くらいの選手がクリアしています。
つまり「ヨーロッパ」をひとくくりにできないので、ヨーロッパについて語ることはできないのです。
ということで「フランス」に絞って、話をしていきましょう。
フランスの棒高跳はフランスの陸上競技の文化と密接に繋がっています。
フランスには、技術に関する規律(Disiplin)が長年あります。この規律は、棒高跳に加えて、三段跳び、ハードルを含めて3つの種目に対して存在します。
そして棒高跳はこの規律とともに、フランス式のシステムを構築してきました。
このシステムを支える一つの要素に「クラブシステム」があります。
政府が全てのスポーツをサポートします。
幼少期から学校でスポーツをすることを推奨され、親たちは子供たちをいくつかのスポーツチームに所属させます。そして、フランスには子供たちが棒高跳をできるクラブがたくさんあります。
非常に早い年代からフランス人は棒高跳を学ぶことができるのです。
だから、多くの棒高跳選手が生まれ、トップ選手を頂点に、非常に大きなピラミッドができます。
フランスは小さい国にもかかわらず、この1年の8番手の選手の記録は5m70です。
そしてこの8人の中に、36歳になったルノー・ラビレニがいて、さらに世界ジュニアチャンピオンもいて、幅広い世代からいい選手が生まれています。
ただ、このシステムはあと少しのところです。
世界の棒高跳で勝つには6mを越えなくてはいけませんが、フランスでは6mを越えたのは2人だけです。
長い時間をかけて「フランス式」の棒高跳を作り上げてきましたが、この根底にある哲学は「Play Pole Vault(棒高跳で遊ぶ)」です。
Fun と Performance
子供たちには、プレッシャーをかける必要はありません。
子供たちにたくさん跳躍の機会を与えることです。
そのためには子供用のポールが必要です。
他のヨーロッパの国とフランスが違うのはここです。
他国の選手は幼少期に棒高跳を行うことができません。
それは、子供が使って曲がるポールを持っていないからです。
フランスにはたくさんのポールがあります。
多くの子供たちがポールを使って遊ぶことができます。
しかもすぐにポールが曲がるので、さらに面白いです。
フランスのクラブではこれまで10〜13歳ごろから棒高跳を始めていましたが、今、もう少し早い世代から始めようとトライしています。
モンドは幼少期から跳んでいました。また、ルノーも6歳くらいから跳んでいました。
でもこれは、練習していたのではなく「棒高跳で遊んでいた」のです。
幼少期に正しい動きを身につけ、感覚を掴めば、15〜17歳で始めるよりも非常に簡単に跳べるようになります。
遊ぶのです。ゲームと一緒です。
いろんな練習方法や、いろんな跳び方があります。
本当に楽しむ方法はたくさんあります。
早くから棒高跳を始める
私は今、息子たちに棒高跳を教えていますが、私の父もまた棒高跳選手で、私は父から棒高跳を教えてもらいました。
私はスプリントや十種競技などを子どもの頃にやっていて、17歳の時に棒高跳に専念しました。
私の息子は、4〜5歳の頃に、裏庭で祖父から棒高跳を教えてもらっていました。これは「遊び」としてやっていたのです。息子たちはサッカーばかりやっていました。そして17歳の頃にサッカーに限界を感じて、棒高跳を始めました。]
息子はサッカーよりも棒高跳の方が向いているから競技を変えたと言いましたが、本当の理由は、陸上のチームにはサッカーよりもたくさん女の子がいたからです。
Mattew(兄)と Thibaut(弟)は同じタイミングで棒高跳を始めましたが、Thibautの方が4歳下ということで、兄よりも棒高跳を習得するのが簡単でした。
昔は、どのポールも重くて、硬かったです。
なかなか簡単に支えるポールが無かった。
でも、今は昔とは全く違います。新しい時代が来たのです。
強くなりたいのであれば、できるだけ早い世代から棒高跳に触れておきましょう。
もちろん、身体能力も重要です。
身体能力と、確かな技術と、そして、何度も何度も跳びましょう。
ポールを曲げる
フランス人は強い踏切の後に、しっかりとドライブを行います。
それはフランス人は背が低いからです。
私は今 175cm ですが、私が5mをグリップ位置として握るのであれば、速く走り、ドライブをしてしっかり前に進まなくてはいけません。
クリス・ニルセン選手が同じグリップ位置を持ったとしたら、踏切の瞬間に私よりもすでに前にいます。
背が低いフランス人は、速く走り、踏切で手を高く上げ、高く跳ぼうとしますが、まずはしっかりと前にドライブをして、大きくポールを曲げます。
一方で、私たちは全てのドリルを曲がらないポールで行います。それはブブカの影響です。
彼は私が選手時代に一緒に国際大会を回っていたチームメイトです。
彼の棒高跳はロシアの文化で、彼は私にとって”神”です。
ロシア式の棒高跳の特徴は、曲がらないポールでのドリルです。
理由は、彼が曲がらないポールしか持っていないからです(笑)
彼が持っているポールは全て硬くて長いです。
冗談はさておき、曲がらないポールの利点として、曲がらないポールだと、ミスができないという点です。だからこそ、どちらも必要でしょう。
フランスでは、棒高跳を学ぶ(ドリルをする)時は「曲がらないポール」で、そして跳ぶ時は「曲がるポール」で跳ぶのです。
早い時期にポールが曲がることを覚えられれば、それは選手にとってとてもいいことです。
下の手の使い方
Don’t See Your Hands.
ポールが正しく曲がる時は、両手が上にあり、胸が開き、肩は柔軟性を使えるポジションにあります。
過去にフランスのコーチにも、下の手を使ってポールを曲げ、下の手を前方に固めることで跳躍を進めるように教えているコーチもいましたが、これは上手くいきません。
ただ指導をするときに面白いことは、2人の息子を同じ時期から同じ言葉を使って教えていますが、2人は異なる動きをしています。
それは身体能力や年齢などのバックグラウンドに影響します。
最も重要な3つの技術
最も重要なことは「速く走ること」です。
ただ速く走るのではなく、跳ぶために速く走るので、何度もスピードを高める練習をして、リラックスして加速して、スピードを高めます。
私は「Opto Jump」を販売していますが、これを使って2002年から数々の試合の助走速度を測定してきました。
また、ハイスピードカメラなどを用いながら、数年間にわたり、ジュニア選手がどのように成長していくかを追いかけています。
ここで何が起きていたかというと、高く跳ぶためには、走る技術が必要なことが明確になりました。
その中でも「最後の6歩」が重要です。
踏切6歩前にどこにいて、どの高さにポールの先があり、姿勢がどうなっているかを確認します。
Spent Time with your Poles.
選手は、ポールを持って、ピットの外で毎日走るようにしています。
ポールは体の延長でしかありません。だからこそ、できるだけ長い時間ポールと過ごす必要があります。
ジュニア選手は週に2〜3回以上跳ぶことができますが、トップ選手は2日以上は跳びません。しかし、ポールを持って走ることはできます。
助走やドリル、エクササイズなど、様々な形でポールと過ごせるようにします。
次に重要なことは「踏切」です。
踏切は最後の2歩です。踏切2歩前に右手が前に、最後の1歩で真上に手が伸びます。
Upside Down & Look at Stars.
踏切の後に重要なのは「逆さまになる(Upside Down)」ことです。
踏切で足が離れた瞬間に勢いよく逆さまになります。
待っている瞬間はありません。
そして逆さまになったあとは、ポールと一緒に上昇していきます。
この時に視点はバーではなく真上をみます。そして逆さまになった体はまっすぐにし、ポールにプレッシャーを与えながら、上昇します。
ここで伝えておきたいこととして、棒高跳には高く跳ぶためのルールはありません。
どんなやり方でも、高く跳べばいいのです。
いろんな跳び方やいろんな技術があります。
みんな違う身長で、身体能力も違うので、同じ技術では跳べません。
しかし、アイデアは同じです。速く走り、いい位置で踏み切り、ポールにプレッシャーをかけながら空中に跳んでいく。
このいくつもある跳び方の中からベストなものを手に入れるには、選手自身がしっかりと棒高跳を理解する必要があります。それぞれのやり方を学び、その中でより良いものを手に入れるのです。
そして高く跳ぶために最も重要なことは「自分を信じること」です。
もし、コーチが信じていて、選手自身が信じていない場合、絶対に跳べません。
選手が「絶対に跳べる / 勝てる」と信じていれば、絶対にできます。
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