棒高跳の旅 in ドイツ(後編)
八木田選手(筑波大学)のドイツ旅行記後編!
2日前に決まった試合!初海外、ショッピングモールでの試合の様子など。
ドイツ国内のスポーツ文化にも注目です。
後編も盛りだくさんです!
【Day8:2.24sat】
まだ真っ暗な朝5時半、家を出ました。会場はBad OeynhausenにあるWere-Park。
家から会場までは約500km、休憩をはさんで5時間半の道のりでした。かなりきついと思っていましたが、アウトバーンを止まらずにひたすら走っていくのであまりストレスは感じませんでした。
会場に到着すると本当にショッピングモールの中にピットが!!
音楽がガンガンかかっていて、司会者もいます。思わずニヤニヤしてしまいます。
着替えと受付をすますと11:15。
試合は12:30開始と聞いていたので時間ないなと思いつつ、アップを始めました。
しかしショッピングモールのど真ん中に1mくらいの高さの助走路が1本あるだけなので身体を動かせる場所がその上しかありません。それなのに他の出場選手はもうすでにポールワークをしていたのでドリルも十分にできませんでした。いつもしているアップをかなりすっとばし、跳び始めました。
ここでまさかの事態。
助走路にはメジャーがなく、おおまかな印もありません。
困りました。
同行していた理事長に相談すると、メジャーを持っていた選手に借りてくれました。
なんとかスタート位置に目印をつけ、助走合わせに。やはり長時間の移動とほとんどアップをしていないこともあり、身体が重たいこと重たいこと。
何とか踏みきり、もう少し動きたいなと思ったときにまさかの事態②。
試合開始が12:00と言われました。大ピンチ!と思いましたが、出場選手が少なかったこともあり、バーをかけて2本くらい跳べました。
身体も仕上がっていないので、3.01から始めることに。
審判に言いに行かなければなりません。ドキドキです。父の通訳してもらい、なんとか最初の高さとアップライトを申請。
アップライトはドイツ語でStänderというそうです。
メジャーに加え、タンマグも用意されていなかったので、うーん、これは誰かにもらうしかないと思いましたが、日本じゃないじゃん、どきどき。とりあえず同性の選手を探すと、左利きの選手が一人いました。
他の男子の選手はあいさつを交わしてくれたり、目を合わせてにこっとしてくれたりするのにこの選手はしてくれず、怖いなと思っていましたが、背に腹は代えられない。勇気を出してその選手に話しかけてみました。
拙い英語で自己紹介をすると向こうもハニカミながら答えてくれて、ほっとしました。
目を合わせてくれないのは人見知りなだけみたいでした。ドイツ人には人見知りが意外に多いみたいです。
そしていよいよ試合開始。
バタバタ過ぎて若干息切れしています。とりあえず気持ちを落ち着かせ、ピットに立ちました。
ピットの両側1mには観客、おばさんがにこにこしながら私を見てくれます。
近いな、と思っているうちに会場の司会者が私の紹介を始めました。
相変わらずドイツ語は何言っているかわかりませんが、
「Haruna Yagita!from University of Tsukuba,Japan!」
的なことを言われ、会場からのたくさんの拍手を受けた時はおおおおおおお!と高ぶり、思わず両手を上げて答えてしまいました。
審判が白旗を上げたのですが日本と違って振り下ろさないのであ、そういう感じか、とぶつぶつつぶやいてるうちに、補助員の人たちが勝手に手拍子を始めます。
え、まじか、いきなりか、と思いながら、出発。
とりあえず跳んだ、というしょぼい跳躍でしたが、会場からはたくさんの拍手。この際盛大に調子に乗ってやれと思い、マットの上で手を挙げて応えます。
3.01をもう一人の女子の選手が落とし、NMで競技終了。まさかの優勝が決まりました。
男子が控えていますが、まだまだ低い高さなので私一人。やりたい放題です。
次の高さは3.21、その次の3.31も一回目でクリア。少しずつ身体も動いてきました。
そうして臨んだ3.41、1回目2回目ともにポールが流れ始めました。3回目でポール変えるのはちょっと怖かったのでグリップを上げて対処しようと思いました。
ピットに立ち、相変わらず勝手に手拍子が始まります。3回目だし、調子に乗ってみようと思い、両手を高く上げて手拍子を求めました。会場は全力で応えてくれます。
踏み切り近くには私と同じように頭の上で手拍子をしてくれている人も。
この国すげー!と思い、気持ちが高ぶりすぎた結果大流れ。
記録は3.31で終了しました。
マットの上で観客にお辞儀。審判へも一人一人目を合わせてDanke!と言いました。
会場に到着してから1時間動きっぱなしだったので、試合が終わってやっと落ち着くことができました。そして今とても貴重な経験をさせてもらえていたことを実感し、感動しました。
その後の男子の試合をマットの横で見ていると、現地の女の子2人に写真を撮ってほしいと話しかけられました。私!?と少し動揺してしまいましたが、いい笑顔でパシャリ。
こんな私でも彼女たちには写真を撮ってほしい存在なのか、と思いとても嬉しくなりました。
男子の試合も終わり、表彰式。なんと賞状とトロフィーを頂きました。
終わってから気づきましたが、参加費なにも払っていません。しかもほぼ飛び入り参加のような選手に主催者であるS.C.potsdamの皆さんは暖かく迎えてくれて、会場の方々もjapanaを応援してくれて、本当に感動しました。
そして本当に楽しく試合ができました。
男子エリートの部が20:00から行われるということで近所に宿をとり一旦休憩。
19時過ぎに再び来ると会場は大混雑。
土曜日の夜に棒高を見るためにこれだけの人が来ているのかと思うと驚きです。昼間よりも音楽の音量が大きく、ちびっこチアリーダーもいます。
雰囲気は試合というよりお祭りです。
この男子エリートの部にはLAZで練習をしているKarstenとDanielも出場します。いつも通り、二人仲良さげです。
選手紹介が始まり、選手のでかさに驚きましたが、周りの観客のでかさにも驚きました。
背の小さい私は埋もれてしまいます。父と一緒に見ていると、KarstenとDanielが私たちを見つけ、あいさつに来てくれました。私はパンをもぐもぐしていたのですが、びっくりして出そうになりました。とても嬉しかったです。
今日は嬉しいことが多いですね。幸せです。見る場所をいろいろと変えながら、試合観戦を満喫しました。現地の人はご飯を食べながら、アイスを食べながら、お酒を飲みながら、老若男女、全ての年代が試合を見て、そして楽しんでいます。驚きです。
優勝は5.65を跳んだBen Brodersというベルギーの選手でした。
その後の表彰式等が終了したのは23:00。こんな時間までちびっこチアリーダーは踊っていました。日本ではまず考えられません。
この大会を通して感じたことは、スポーツの根付き方の違いです。
日本ではスポーツは競技場で限られた人が楽しむもの、と思われていますが、ドイツではショッピングモールなどの生活圏内でも全ての年代の人が楽しめるものとされています。
楽しみ方はそれぞれで、選手は自分の競技を楽しむ、観客はご飯を食べながら、お酒を飲みながら、はるか高いバーを跳ぶ選手を見て休日の夜を楽しんでいます。
この大会にはDJがいて、選手によって選曲をしていました。
試技と試技の間にはゆったりとした曲を流し、その差で盛り上がるように雰囲気づくりをしていました。まるでクラブです。
父もよく言っているのですが、競技は選手だけのものではなく、どんどん街に出ていかなければならないと、私も思います。今はまだ興奮しているのでまとまった文が書けませんが、体育・スポーツ経営学所属としてもう少し学問的に書けば卒論になるのでは?
【Day9:2.25sun】
昨日が試合だったので今日はRestです。
今日で理事長が帰られるので、フランクフルト空港までお見送りに。
途中ライン川に沿って空港に向かいました。川岸というか、岩山の上には城が乱立。
映画の世界です。理事長を送り届け、無事帰宅。
大きな事故もなく、往復1000kmの旅も終わりました。
残すところあと5日、練習はあと4日です。跳びまくって帰ります!
【Day10:2.26mon】
朝一で事件です。
毎日朝食を買いに行っていたパン屋が開いていませんでした。
つぶれたのかもしれません。
おいしかったのでショックです。少し遠くにあるパン屋へ。事なきを得ました。
そして10時にLAZへ。
到着するとDay3に出会ったDenisがいました。
あのあと体調を崩していたそうです。なんだかDenisに会う日はトラブルが多く、今日も鍵が開いていません。なんとAlexが鍵を忘れたそうで。15分待ちでした。
その間彼といろんな話をします。彼は日本が好きなようで、いろいろな質問をしてきます。
あの食いつきようは、そのうち日本にやってくると思います。
あれから1週間経ち、英語がスラスラ聞き取れ、拙いながらも話すことができるようになっていることに気が付きました。慣れてきたんだなと感じました。
そうこうしているうちにAlexがやってきたので10:15ごろから練習開始。
土日の疲れもあり、身体がとても重く感じました。
このラスト4日間は練習を増やそうと思っているので先行き不安になりましたが、何本か流しをすると少し良くなってきました。
しかしいまいちポールの曲がりというか、起きが悪いので、5ポンド落として跳びました。
高い突っ込みと上半身を使ったアクティブなスイングが少しずつわかってきて、後半はいい跳躍が続きました。
2時間ちょっとで練習を切り上げ帰宅。
少しアキレス腱が痛いので今日はお風呂に浸かろうと思います。
明日は午前に跳躍、午後にクラブの子どもたち(5歳とか下なのに私よりでかい)とドリルをやろうと思っています。
なんだか帰るのが名残惜しくなってきました…。
【Day11:2.27tue】
朗報。
パン屋つぶれていませんでした!!
昨日は機械が壊れてしまったようです。いつも通り朝食を食べ、雨戸を開けると一面真っ白。
何と雪が積もっていました。とてもとても寒い。LAZに向かう道中、いつもより注意して向かいました。
昨日と同じく14歩で跳びました。
昨日より調子よかったです。
あともう少し、惜しいところまで来ているような気がします。
しかし若干貧血気味で疲労感がいつも以上でした。
帰りにスーパーに寄り、貧血対策として牛肉を買ってステーキを昼に食べました。
焼き加減は絶妙。美味しかったです。
しばしのんびり過ごし、午後練へ。
ちびっこたちと一緒にドリルをやらせていただきました。
練習初日から言われ続けている右手を高く、右手を大きく。
この動きを作るためのドリルです。
私は入りでお腹が抜けてしまうのでドリルでもそれが顕著に出てしまいました。
右手から足先までをstraightに、お腹をstrengthに、胸はopen、ひたすらこれです。
11fくらいの柔らかいポールを曲げ、動きを作ります。
この時、左手で曲げる癖が出てしまいます。
これでは右手中心の突っ込みはできません。
まず右手、そのあとに左手で曲げていきます。
理想の入りを作れそうなので日本に帰っても特訓です。
一緒に練習をしてくれたgirlsに日本のお土産をあげました。
喜んでくれたのでよかったです!
あと、LAZのFacebookに載せてもらうことになりました。
恥ずかしい…。そして公式インスタグラムにもフォローされてしまいました。
くだらないストーリーしかあげていないのでこれもまた恥ずかしい…。
明日は軽く練習した後少し旅行へ。
フランスが近いので国境を越えてきます。
【Day12:2.28wed】
今日も10時から練習です。
いつも車に乗ると外気温が表示されるのですが、今日はなんと-10度。
跳躍ブロックは今日から沖縄合宿が始まり、半袖でも暑いと言っているのに、こちらは氷点下。
-10度って本当に寒いんです。寒い寒い言いながらLAZに到着。
今日は軽めの練習なので、久石譲の曲(オーケストラver.)を聞きながらバイクを30分漕ぎました。もののけ姫のサウンドトラックが一番上がります。
その後少しjogとストレッチをして今日の練習は終了。
Denisがいたので、昨日girlsにあげたお土産をあげました。喜んでくれました。
あと、私が寒すぎてカイロを持っていたら興味を示してきたので、明日あげようと思います。
LAZで練習できるのはあと1日。あっという間でした。
明日は納得のいく跳躍をして終わりたいと思います。
着替えを済ませ、フランスへ。
昼食は朝父が鍋でお米を炊き、それで作ったおにぎりです。
こっちにきて米を買ったのですが、その粘り気のないお米じゃおにぎりできないよと以前言ったはずなのに、今朝になって「全然握れないんだけど。」と言っています。
この前言ったじゃん!!
イライラが募りますね。
人の話は聞いておいた方がいいです。
フランスのストラスブールという街を目指します。
距離にして大体100km。土曜日に500kmの移動を経験した身としてはイージーです。
国境を越える瞬間、どうなるのか非常に楽しみにしていたのですが、何にもなさ過ぎて気づいたらフランスに入っていた、という感じでした。
山道になかに看板があるだけ。それだけでした。楽でいいのですが、ちょっとがっかり。
この10日間でドイツ語に慣れていたようで、標識やラジオのフランス語に違和感がありました。
父は過去にフランスで働いた経験があるので、フランス語も話せます。
調子に乗って標識の文字をわざわざ読んできます。うざいです。
景色は特に変わらないのですが、ドイツ人とフランス人、運転の荒さが全く違います。
ドイツ人は比較的マナーがよく、ウインカーをしっかり出しますし、信号無視もほとんどしません。
しかしフランス人は真逆。ウインカー出さないし、信号無視もします。高速道路では速度制限があるので、ドイツのように恐ろしいスピードの車はいません。しかし容赦のない割込みはしてきます。
街中の駐車場に車を停め、ストラスブール大聖堂へ。
首が痛くなるくらい大きくて高い建物でした。
私が3歳の時もここに来たことがあるそうなのですが、全く覚えていません。
大聖堂はThe観光地ということで周りにはたくさんのお土産屋さん。京都みたいな感じですね。あとは物乞いがたくさんいました。寒いのに大変。
街中は寒さに加え風も吹いていたので、寒さが苦手な私は寒いしか言わなくなりました。寒すぎてお土産を見る気も失せてしまいます。
おいしそうなお菓子屋さん、でも寒いからいい。
綺麗な街並み、でも寒いから室内に入りたい。
本当に寒かったのでおしゃれなカフェでココアを飲みました。店員さんがココアを持ってきてくれた時、自然に「Danke(ドイツ語のありがとう)」と言ってしまいそうでした。
これは完全にかぶれてる。日本で言ったら恥ずかしいやつです。
一通り街を堪能したので、帰路につくことに。途中、ビールガールのようにタンクを背負ったスタバのお姉さんがココアをくれました。お金を払おうと思ったらまさかのタダ。これにはびっくり、最高のおもてなしです。
家に帰り、パパっと夕食を作りました。
冷蔵庫の中の食材がなくなっていくのがさみしいですがいいペースでなくなってきました。
前述したとおり明日は練習最終日。
この2週間の集大成として、納得のいく跳躍をして終わりたいと思います。
【Day13:3.1thu】
練習最終日です。
ドイツに来て13日ということもあり、少し疲れが出てきました。
今日も14歩。
疲れているとはいえやはり調子はいいようで、よく走れます。
右手の高い入り、これが少しずつ身についてきました。
自分でも以前とは違う感覚があるのがわかってきました。
最終日なので、20本弱跳びました。
日本は暖かいようなので、帰ってからもたくさん飛びたいと思います。
この2週間を振り返り、ここに来れて本当によかったなと思いました。
練習に来ていたDanielとRaphael(ホルツデッペ)、コーチのTivontchikと写真を撮ってもらいました。Tokyo2020のおかげで、日本を意識してもらえるので嬉しいです。
試合の狭間だったので一緒に練習をするということはなかったですが、彼らに出会えたことに感謝です。
ちなみにRaphaelは長さ5m20、Flex13~14のポールを使っているそうです。
World indoor頑張れ!
昼食は初日にも行ったドイツ料理屋さん。
香草入りの不思議な味のソースのかかった牛肉を食べました。おいしかったです。
帰宅し、荷造りを始めます。お土産などで荷物が増えたので腕が試されます。とりあえず半分詰めました。 お土産を買い足し、夕方にはもう一度LAZへ。皆さんに挨拶をしに行きました。
Alexは体調を崩してしまったようで、かなり辛そうでしたが最後に会えてよかったです。いきなりやってきたにもかかわらず熱心に指導してもらい、試合へのエントリーもしてくれて本当に感謝しています。これはもっともっと高く跳んで恩返しするしかないですね。
そして窓口になってくれたVieweg、気さくでとてもいい方です。私たちを受け入れてくれたこと、本当に感謝です。
そして初日に出会ったイスラエル人ボウルターのDenis。彼とはいろいろな話ができたのでよかったです。彼からはきっとメールが来ると思うので、これからも仲良くしていきたいと思います。
この2週間、本当にあっという間でした。初めて海外で練習をして、LAZの皆さんが温かく迎えてくださったおかげで今ではすごく居心地の良い場所となりました。来年以降もまた来たい、そう思えるような場所です。そして滞在地となった貸別荘の大家さん。素晴らしい生活環境をありがとうございました。
家に帰るまでが合宿、長旅なので気をつけて帰ります。Danke,LAZ! Tschüss bis …!!
これにてドイツ旅行記完結です。
来年の旅行記も楽しみにしています!
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